鹿児島県民には知っててほしい! 「薩摩ボタン」の復活までの道のり

「本場大島紬」「川辺仏壇」「薩摩焼」は、経済産業大臣の指定を受けた鹿児島県の「国指定伝統的工芸品」。

薩摩焼は、「白薩摩」と「黒薩摩」に大きく分かれます。薩摩ボタンは、白薩摩に、薩摩焼の技法を駆使して絵付けをしたもの。着物の帯留やオーダーメイドなどの洋服の装いに使用したり、ジュエリーのような芸術品です。

繊細な技法である薩摩ボタンの作り手は、だんだん減り、途絶えてしまった時期があります。時を経て、薩摩ボタンは、「薩摩志史」絵付け師の室田志保さんによって復活することができました。

薩摩ボタンとは

薩摩ボタンの歴史は、江戸末期に始まったと言われています。薩摩藩が倒幕運動などに、必要な外資を得るための軍資金になったとされる伝説が残っています。生活風景や花鳥風月などの日本的なものが多く描かれ、ジャポニズム文化の一つとして、欧米コレクターにとって大変貴重なものとされました。その名残か、現在の欧米の方達(ボタンコレクター)にも薩摩ボタンは人気があります。

▲昔の薩摩ボタン

淡い黄色の地に無色の釉薬が掛かった陶器に、表面に貫入(かんにゅう)といわれる細かなヒビが入っているのが特徴の白薩摩。白薩摩でつくられた8mmから5cmのボタンに、金をはじめとする豪華絢爛な配色を施し、ミリ単位で作品を描いています。

▲いろいろな使い方ができる薩摩ボタン

使い方は、着物の帯留として使ったり、アクセサリーとして使ったりとさまざまです。中には、額装として購入される方もいます。自分へのご褒美や贈答など、シーンに合わせての使い方ができるのも魅力の一つです。

室田さんと薩摩ボタンの出会い

絵付ヶ舎「薩摩志史」の絵付け師である、室田志保さんが、薩摩ボタンを復活させました。

室田さんは、船の機関士だった父に、「これからは、手に職をつける時代だ」と言われ、丁稚になろうと思ったそうです。細かい作業が得意だったこともあり、鹿児島純心女子短期大学造形芸術コースに入学。卒業後は、薩摩焼のお茶道具をつくっている窯元で働きました。最初は、荷造りなどの雑用から始まり、次第に絵付けをするように。白薩摩絵付けは、完全分業制なので、師匠が描いた絵のまわりの紋様を室田さんが描いていました。

室田さんは、仕事をはじめて8年ほど経った頃、鹿児島の地域情報誌に掲載されていた「復刻された薩摩ボタン」の特集記事で、薩摩ボタンの存在を知りました。当時は、手描きの職人がいなかったので、機械で転写をしての復刻でした。「誰も手描きをする人がいないのなら、やってみたい」と思ったそう。

直径1.5cmのボタンの中に、あらゆる技法がギュッ詰まっている薩摩ボタン。室田さんは、「ボタンの中の小さな宇宙」だと感じました。薩摩ボタンに魅了され、10年の修行を経て、独立を決意。2005年に制作用のアトリエを、鹿児島県垂水市に構えました。

手描きの薩摩ボタンの復刻への道のり

▲薩摩ボタンがつくられる工程

薩摩ボタンは、ボタン生地→下書き→すじ描き→色入れ→窯入1度目→窯入2度目→窯入れ3度目→完成という8つの工程を経ます。

生地をつくる工程と絵付けをする工程は、分業制です。薩摩ボタンを復刻するにあたり、白薩摩焼でボタンをつくれる職人の協力が必要です。独立したてのころは、ボタン生地をつくってくれる職人が見つからず、やむなくお皿に絵を描いていたというエピソードがあります。なんとか、つくれる人を探し出すことができましたが、形などミリ単位で細かく注文したことにより、「つくることが難しい」と言われてしまいました。

自分で生地をつくることが一番なのですが、絵付けに時間がかかるので、生地は専門の職人に頼むのがベストです。再び、薩摩ボタンをつくってくれる職人を探し、希望通りにつくってくれる職人に出会うことができました。現在も、同じ職人が生地をつくっています。

小さなボタンの中に描かれている細かく繊細な絵。こちらは、イタチの毛でつくられた筆で描かれています。「たぬきの毛など、いろいろと試しましたが、カーブなど描き心地が良いのは、イタチの筆でした」と室田さんは話します。

こちらは、「おむすびころりん3種〜おむすびが幸せを呼び込む物語〜」。左は「お爺さんと転がるおむすび」、真ん中は「ねずみ喜ぶ、おむすびの舞」、右は「強欲爺さんと逃げるねずみ達」という作品です。お気づきかと思いますが、昔話を薩摩ボタンにしたものです。1個ずつ購入することもできますし、3個セットで購入をすることもできます。

他にも、『花咲じいさん』や『一寸法師』シリーズがあります。すべてコンプリートしている、お客さまがいらっしゃるそうですよ! 他にも、さまざまな作品があります(現在は、オーダーメイドのご注文はお受けしていません)。

お客さま一人ひとりと向き合い、一つひとつの作品を丁寧に仕上げていく室田さん。一番最初に注文をしたお客さまとは、今でもお付き合いがあるそう。リピート率の高さを誇る薩摩ボタンは、オンラインショップと仙巌園にある「磯工芸館 」、山形屋にて購入できます。

◆オンラインショップ

https://satsumacc.shop

投稿者プロフィール

上村 ゆい
上村 ゆいヨガインストラクター×フリーライター
ヨガインストラクター×ライター。どちらかというと身体が硬めのヨガインストラクターです。その人に合ったレッスン内容を心がけているので、老若男女問わずレッスンを受けていただいています。ヨガレッスンは、出張ヨガがメイン。趣味は、美味しいものを食べること。ライターとして鹿児島のいろいろなことをを発信していけたらと思います。