沖永良部島でワーケーション中に出会った友人の話
沖永良部島でひょんなことから知り合った米谷さん(あだ名は米ちゃん)。
どことなく「島の人っぽくないなー」と思って話したら、現在ワーケーション中とのこと。それから仲良くなり何度か飲んだり遊んだり、当初組んでいた予定を1ヶ月延ばして計4ヶ月間滞在した後、つい先日、拠点の東京に帰っていきました。
最近、まちおこしの文脈でよく耳にする「ワーケーション」。企業が研修のように行ったり、社員が常駐できるサテライトオフィスをつくったり、一方でリモートワークができる個人が自由に働く場所を選んで働いたり、そのスタイルはケース・バイ・ケースです。
私自身、ライターや編集者という立場でリモートワーク的なお仕事もしますが、いちおう、拠点はここ沖永良部島。では、そうでない人がワーケーションを過ごすってどんな感じなのか。島を離れて間もない米ちゃんに話を聞いてみました。
※友人同士の会話なので、そのままの雰囲気でお送りします。
*
旅先で「シェアハウス来ないか」と誘われて
ネルソン「そもそもなんで沖永良部島(以下、えらぶ)にワーケーションに来たんだっけ?観光地としてはマイナーでしょ」
米ちゃん「2020年の終わりぐらいからコロナでフルリモートワークになって、東京にいる必要がなくなったの。それでもともと旅好きだったし国内を色々めぐって環境を変えながら仕事しようと思って、八重山諸島からスタートして北海道までずっと北上した時期があったんだよね」
ネルソン「なんと優雅な。その中で、えらぶに来た?」
米ちゃん「うん。数日いたくらいなんだけど、そのときに泊まった宿のオーナーが『シェアハウスを準備している』と聞いて、そこで初めて『島に住むっていうのもおもしろそう』と考えて。完成したら教えてくださいと言って別れて、できたから来たっていう感じ。なので、知っている人がシェアハウスに誘ってくれたということが一番大きいね」
ネルソン「島の人から声を掛けられるって大きいよね。知らないコミュニティに入るって、数カ月間にしろ勇気要るじゃない。歓迎されなかったらお互い嫌な思いするし。とはいえ、えらぶってたとえば石垣島に比べれば便利じゃないでしょ?それでも来たんだね」
米ちゃん「観光色が強くないっていうのも、よかったよ。観光業が盛んな島だと都会から来た人も多くて、そういった人に合わせて便利になってたり、普段の都市生活との違いをあんまり感じない。初めてえらぶに来たときに観光スポットを回ってみたんだけど、どこに行っても観光客が一人もいないぞと(笑)。そんな、ただただ地方の田舎に行った感じがして、『落ち着いて生活するイメージが湧いた』ということもある」
ネルソン「生活するイメージが湧いた、かぁ。それって重要だね。昔から農業が強くて観光業が盛んじゃなかったことから、とくにお年寄りの世代は『何もない島』なんて言うけど、ワーケーションみたいに『観光』と『生活』の境界線が曖昧になりはじめている現代にとっては、その非日常感ならぬ日常感が強みにもなるよね」
飲み会に出るために逆にメリハリの効いた生活へ
ネルソン「実際にどんな生活だったの?4ヶ月を振り返って」
米ちゃん「飲みっぱなしでしたね(笑)」
ネルソン「そうなんだ(笑)」
米ちゃん「ゆうこりん(シェアハウスの管理をする共通の友人で移住者)をきっかけに自然と人脈が広がって、そうしたら島って、『BBQがあるよ』、『誕生日会があるよ』、ってイベントがよくあるじゃないですか。あとは何の用事もなく飲みに行ったりもしたし」
ネルソン「集まりは多いっていうよね。って、仕事は!?(笑)」
米ちゃん「もちろん飲み会は夜の話で、昼間は仕事して。でも、『夜は飲まなければならない』『昼のうちに仕事を片付けなければいけない』ということで、えらぶにいる間はある程度のリズムができてたね。ふだん東京だったら朝から夜までダラダラ仕事して、土日も関係ない、仕事と休憩がミックスされた働き方だったんだけど、かえってメリハリがついたよ」
ネルソン「へーーー!おもしろいね。ワーケーションってよく『遊んでんだか働いてんだかどっちだ』みたいなことを言われがちだけど、遊ぶ、というより遊ばなければいけないからこそ、昼間にギュッと集中して仕事する。でもそこで、遊びを断って仕事を優先する、という選択肢は取らなかったんだ?」
米ちゃん「そうだね、島の人と飲んでる方が価値があると思うから。でもこれが、たとえば定住するとかになると違ってくると思うよ。飲みすぎると体調も悪くなるし」
ネルソン「ふつうは4ヶ月飲み続けても体調悪くなると思うけど(笑)…でも、うん。短い期間だからこそ交流を優先する、だから仕事にメリハリをつける、すごく納得です」
米ちゃん「でも、こんなに島の人たちと親しくなるとは想像していなかった。飲む機会くらいはあるかなと思ってたけど、それこそ週5も飲むなんて」
オフ(休み)は充実した日々、でもオン(仕事)はそうでもない。
ネルソン「具体的には、どんな人との出会いがあった?」
米ちゃん「島で生まれ育った人。とくに島とのつながりを強くしてくれた、たつやさんとゆりこさんには大感謝!あとは年下の移住者、ふだんは出会わないような大学教授や研究者の方とか、学術的な面から島と接点を持っている人もいて刺激的だった」
ネルソン「俺もこっちに住んでから、研究者という肩書きの知人がえらい増えた(笑)」
米ちゃん「そこでオフは充実していたけど、オンについてはそうでもなかったかなぁ」
ネルソン「どういうこと?」
米ちゃん「僕はフルリモートで仕事をしているけど、その仕事内容や業界は島でそこまで理解はされないし、島のビジネスにも関わっていないんだよね。なので、ネルソンとの関係は島では珍しいケースなんだけど、業務上の課題などのオンに関しての話をしたり、いっしょに何かやってみようかという流れになる機会が、東京にいるときよりかなり少なかった。仕事の幅を広げるところでは向いていないと思ったな。でも、オン・オフを切り分けられるのは島のよさだとも考えている」
ネルソン「それ、めっちゃ分かる。というより、米ちゃんと会って薄々感じてたことが今ハッキリと言葉になって聞けた感覚。自分は長く海外にいたから周りにリアルで仕事仲間が少なかったけど、米ちゃんと会ったときに仕事の話になって、『そうか、仕事で接点がある人同士が話すとこういうこと(人の紹介など)が起こるのか』と少し感激した」
IT人材の誘致は課題の見える化とマッチング
ネルソン「今、島でもコワーキングスペースをつくるという話を聞いていてさ。そういうオン(リモートワーカーの仕事上のつながり)でも交流できる場ができるといいよね」
米ちゃん「それについては、コワーキングスペースってどこの島に行ってもあるようになったけど、ハードとしての場が誘致の最低条件になるかといえばそうでもないと思うんだよね」
ネルソン「そうなの??」
米ちゃん「滞在先にWi-Fi環境が確保されていればそれで十分なので、僕みたいな人たちがわざわざ外に行って仕事しようとは思わない。それを上回るメリット、島の人や同業の人とコミュニケーションがとれるとか、そういったソフト面に魅力を感じないと集まらないだろうなと。それこそ、同業者が集まる飲み会があれば、コワーキングスペースじゃなくったっていい」
ネルソン「確かに確かに」
米ちゃん「バケーションに期待する人を呼びたいというのであれば問題はないかもしれないけど、島にIT人材が来ることを望むのであれば、この島とIT人材の関係値が深まる仕組みが必要だと思ってて、そこでオン・オフともに接点が持てるとよいと思う。たとえば、どこそこに行けば島の課題が付箋にして貼ってあって、ITスキルを活かしてそれを解決したら感謝してくれる島の人がいたりとか。そうすれば、オンのつながりもできる」
ネルソン「そうだねぇ。島って、少子高齢化とか、漂着ゴミの問題とか、社会課題がめちゃくちゃあって、その解決にIT人材が必要な場面って本当に多いと思うんだよね。だけどさっき米ちゃんが言ったように、島、というか、田舎と都会は『働き方』に対する捉え方が違うところもあって。実はすごくいいタッグになれるということがお互いに見えづらい。だからこそ、地域の課題解決に筋道を立てて、両者との間を取り持つ人は必要だよね」
離島✕ワーケーションの課題はやはりインフラ
ネルソン「最後に。えらぶのワーケーションで課題があれば聞かせてもらえる?」
米ちゃん「海が近くて、釣りもできるというのは、都会にはない気分転換のしやすさはいいところ。人によるかもしれないけど、『飲みに来いよ』と家に上げてくれる人がいる魅力もある。でもそれは同時に、誘惑の多さでもあったかな(笑)」
ネルソン「そうだね、それは(笑)。自分との戦いだ」
米ちゃん「あと僕は月に一度は用事があって島外に出たけど、県内移動でも飛行機だとお金がかかるとか、船で那覇経由なら一泊しないといけないとか、島外と仕事をしていると出張にお金と時間がかかる。車がないと生活できないので交通手段は確保する。インフラでいえば台風で長期の停電があったら仕事が止まる。とか」
ネルソン「なかなか難しいもんだね。キレイな海とか、人情とか、現代社会だと人が少ないところに多いイメージだけど、人が少ないからこそインフラが弱い、皮肉な話だ。まぁ、でも、自分のワークスタイルやライフスタイルにとって優先するべきものかどうか、ひとつひとつを見ていって、『合うかも』と思ったらえらぶや島にワーケーションしてほしいよね」
米ちゃん「そうだね。島内にITニーズがあれば、それに合ったIT人材がワーケーションしに来るきっかけにはなるかもね(笑)」
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文章:ネルソン水嶋(えらぶカレンダー運営者)
写真:米谷さん(米ちゃん)
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