全国的に梅雨明け宣言があり、本格的な夏を迎えます。暑さの中で清涼感を味わえる場所として、私は「滝」をお奨めします。落差のある瀑布の轟音やマイナスイオンを含んだ水飛沫は暑さを忘れさせてくれます。今回は滝の魅力と滝はどうしてできたのかについて、2回にわたり紹介します。
1 滝のような日本の河川
日本の河川は、延長が短い割には高低差が大きく、そのため急流や滝、渓谷が数多く点在しています。
世界中の河川と比較してみますと、大河と呼ばれている河川の延長は数千㌔、源流からの高低差は4千㍍ほどであることから、明治時代に河川工事のために来日していたオランダの技師デレーケは、日本の川を見て「これは川ではない。滝だ。」と言ったほどです。ちなみに、日本の一級河川(108水系)の平均延長は108㌔で、高低差は約2,000㍍ほどです。
下表は、1m下るのに何mの距離が必要かを示しました。グラフの勾配を比較して見ますと、日本の河川はまさに“滝”という代名詞がふさわしいようです。
平均延長 | 平均高低差 | 勾配率 | |
日本の河川 | 108㎞ | 2,000m | 52m |
海外の河川 | 4,000㎞ | 4,000m | 1,000m |
特に錦江湾奥沿いの霧島にある天降川や検校川は、霧島連山などの高山を水源地として流れて来るため、河川の延長に比べ、高低差が大きいこと、さらには以前も紹介しました、姶良カルデラの形成そのものが、滝や渓谷を多く作り出しています。
2 姶良カルデラの噴火
「姶良カルデラ」は、鹿児島湾最北部に位置する直径約20kmの巨大噴火の跡です。姶良カルデラの噴火以前の地形ははっきりしませんが、薩摩半島と大隅半島の間には南北に延びる溝(陥没)みたいな地形になっていることから、地溝帯が霧島連山の近くまで延びていたと推測されます。
約3万年前の「カルデラ噴火」と呼ばれる巨大噴火が発生しました。この噴火は直径10㎞以上の火砕物(マグマが粉砕されて火山灰、軽石、火山礫など大小様々な物質のこと)を含む噴煙が標高2万mを超える高さまで噴出し、自重に耐え切れなくなり崩壊する「噴煙柱崩壊型」の火砕流が発生しました。
この時に発生した火砕流体積物は、カルデラ近くの南九州では300m近く降り積もりました。ちなみに、私が学生時代にいた岡山では約3m、東京では約1.5m、東北地方でも1m近い火山灰が堆積したと思われます。これは、現在確認できる地層(AT層:姶良丹沢火山灰層)から当時堆積した厚さを勘案して試算したものです。
3 カルデラ台地
霧島市に広がるカルデラ台地は、主に錦江湾を起源とする「姶良カルデラ」の噴出物によって形成されています。その主な構成物は「入戸火砕流」と呼ばれている火山灰で、一般的には「シラス」と言った方が通じるのではないでしょうか。
この噴火活動によって、南九州の地形は一変しました。
当然、噴火前の地形も現在の地形と同様に、山や台地、谷、盆地、平野などの地形が広がっていました。そこに、超巨大噴火によって火砕流が発生し、当時の地形(現在の標高270m付近まで)を全て覆い隠しました。
噴火直後の錦江湾周辺の地形(吉野から牧之原まで)は、延々と広がる平坦な一つの台地だったと思われます。その後、降雨や川の流水によって浸食され、谷間を形成し、谷間にあった火山灰は錦江湾まで流され、国分平野や加治木・姶良平野を形成していきました。侵食を免れた台地の頂上部が平坦で均一に見えるのはこのためです。
4 溶結凝灰岩の形成
実は、このカルデラ台地を形成する時に、台地の中では大きな化学変化が起きていました。約300m近く体積した火山灰は、700℃近い高温と火山灰自体の重さ(圧力)によって、再び融解し「溶結凝灰岩」となりました。
溶結凝灰岩の形成は、噴火前の地形によって異なりますが、地表より数十mまでは火山灰(シラス)がそのまま積もっており、その下位は溶結凝灰岩となっています。
この溶結凝灰岩の形成時は高温でしたが、徐々に冷えてきますと岩石の収縮が始まり、亀裂が生じました。時代とともにこの亀裂から崩壊が始まり、切り立った断崖や渓谷、そして「滝」などを形成しました。
ちなみに、この溶結凝灰岩はふんだんにあり、しかも加工し易く安価であることから、武家屋敷の石壁や石蔵、墓石、鹿児島市の五石橋などに使われています。
5 カルデラ周辺の滝
巨大カルデラの周辺には先ほど述べたようにカルデラ台地を削るようにして多くの滝が存在しています。主な滝としては、犬飼滝(霧島市)、龍門滝(姶良市)、神川滝(錦江町)、曽木の滝(大口市)、桐原の滝(曾於市)、関之尾滝(都城市)などがあげられますが、次のような特徴があります。
➀滝の上流部は比較的平坦となっている |
➁また甌穴が発達している(関之尾滝:都城市) |
➂垂直に切り立った断崖で、直瀑が多い |
➃滝つぼの裏側がえぐれており、裏見の滝となる |
➄川幅に比べて、極端に広く円形の滝壺を持つ |
➅滝の下流には両岸が断崖を有する渓谷がある(高千穂峡) |
➆滝の下流の石に甌穴の痕跡がみられる |
次回は、なぜこのような滝の特徴ができるのか、滝はどのようにしてできるのかについて紹介します。
文責:鈴木
投稿者プロフィール
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霧島市に在住しています。
読書とボウリングが趣味です。
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