「花は霧島 煙草は国分 燃えて上がるは桜島」とおはら節にもあるように、国分はタバコの名産地として広く世に知られています。今回は、タバコを国分地域の特産品までにした島津義久について紹介します。
1 タバコの伝来
タバコは南米ボリビアのインディオたちが、野生種を吸っていたことにはじまる、という説が有力です。その後、コロンブスのアメリカ大陸発見によって、南米一帯に広まっていた喫煙の風習がヨーロッパに伝わり、やがて全世界に広まっていきました。
日本への伝来については、諸説があり確定的なことはいえませんが、明治14年に刊行した「薩隅煙草録」には慶長初年(1596)の頃に指宿で初めてタバコの苗が植えられたとされています。タバコを喫む習慣はそれよりもっと以前(天正年間・1573)から伝わっていたと思われます。
2 国分タバコの始まり
国分タバコが生産されるようになったのは、慶長11年(1606)に服部宗重が島津義久の命で国分の梅木(現在の舞鶴中学校付近)に栽培したことに始まります。
服部宗重は、天文16年(1576)に伊賀国(三重県西部)で生まれ、その後、天正14年(1586)に島津義久に仕えました。もともとタバコ好きな宗重は、舞鶴城の近くで採れた、タバコが他の物に比べ良質であることを知り、島津義久の許しを得て本格的に栽培を始めました。
島津義久がタバコ栽培を奨励した背景には、文禄・慶長の役(朝鮮出兵)や関ヶ原の戦いへの出兵・敗戦、江戸城修築への出費などによって、薩摩藩は財政的に窮迫していたことが挙げられます。当時、タバコ葉が高価で売買されることから、財政の立て直しと、タバコの栽培を藩内の郷士(地方の下級武士)の専業とすることで、郷士の生活の安定を図ろうとしました。
3 国分タバコが上質な訳
文化12年(1815)に重富の商人吉井太次右衛門が幕府と薩摩藩の許しを得て、国分タバコを江戸に売り込みました。その時の等級と商標(銘柄)は次のとおりでした。
等級 | タバコの銘柄 | 現在の住所 |
1等 | 伊勢ヶ屋敷 | 国分中央四丁目 |
2等 | 車田 | 国分中央四丁目 |
3等 | 砂走 | 国分名波町 |
4等 | 龍王 | 国分中央四丁目 |
5等 | 武元 | 国分中央四丁目 |
6等 | 砂ヶ町 | 国分名波町 |
商標の名は、いずれも国分の生産地であり、それほど国分たばこの品質と産地の名は全国的に通用していました。
では何故、国分タバコはここまで品質が良かったのでしょうか。タバコ葉の高品質を保つためには、確かにタバコを栽培する生産者の技術の熟練度も必要ですが、タバコを最初に栽培した梅木をはじめ、商標にまでなった地名には共通している点があります。
そこは、砂地で水はけは良いのですが、意外と肥沃でない痩せた土地であることです。梅木は天降川(川筋直し以前の河川)の中洲であり、砂走や砂ヶ町も地名から分かるように砂地でありました。このように、たばこの栽培には、砂地で水はけが良く肥沃でないことが、たばこの根が大きく張り、植物の本来の能力を発揮させたことも、その要因かもしれません。
ちなみに、下記の一覧表は鹿児島県内の明治元年から明治10年までのタバコの1斤(0.6㌔)あたりの平均相場は次のとおりで、明治時代になっても、国分地方のタバコの品質が優れているのがわかります。
上 等 | 中 等 | 下 等 | |
国分 清水 吉田 出水 野田 指宿 根占 高尾野 垂水 桜島 | 21銭8厘 21銭4厘 17銭 16銭1厘 14銭5厘 15銭 11銭5厘 12銭 12銭2厘 9銭8厘 | 17銭7厘 16銭6厘 14銭7厘 14銭1厘 13銭4厘 11銭4厘 10銭 10銭 7銭6厘 7銭2厘 | 14銭8厘 11銭8厘 13銭8厘 9銭2厘 9銭1厘 7銭8厘 6銭4厘 6銭5厘 3銭8厘 4銭5厘 |
4 国分タバコの隆盛
国分タバコを江戸に販売することを許されたのは文化年間を皮切りに、その後、大阪、名古屋方面にも販売されました。また、琉球国王から中国皇帝に献上品として天保の末期ごろまで相当量の国分タバコが輸出されていました。
明治初年の相場表によると、産地により高低が激しかったようですが、国分タバコは全国の最高位を占め、明治十年ごろまでは主として葉タバコで出荷していました。
このように、国分タバコは島津義久が生産を奨励してから現在に至るまで、脈々と地域の特産品として受け継がれてきました。昨今、健康増進や健康志向の向上によって喫煙者の減少とともに、葉タバコの生産も少なくなってきました。
島津義久公は、タバコの栽培をはじめ、琉球や明との交易、城下町の整備などによって、国分の町の経済的基盤は確立しました。
(文責:鈴木 写真提供:霧島市)
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